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東京高等裁判所 昭和57年(ネ)1819号 判決

控訴人 甲野花子

被控訴人 甲野太郎

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

控訴代理人は、「一原判決中控訴人敗訴部分を取り消す。二被控訴人は控訴人に対し、金三〇〇万円を支払え。三被控訴人は控訴人に対し、財産分与として金一〇〇〇万円を支払え。四被控訴人は控訴人に対し、長女春子(昭和三九年二月五日生)、二女夏子(昭和四一年五月一六日生)がそれぞれ成年に達するまで養育費として毎月各七万五〇〇〇円を支払え。五訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決並びに仮執行の宣言を求め、被控訴人は、控訴棄却の判決を求めた。

第二当事者の主張並びに証拠関係については、次に付加するほか、原判決事実摘示と同一であるから、これを引用する。

(控訴人の当審における主張)

人事訴訟手続法一五条一項にいう「子ノ監護ニ必要ナル事項」とは、監護の内容方法、期間、監護費用の負担、子の引渡、衣類その他監護のために必要な子に属する物品の引渡、第三者に対する事実上の監護の委託、親権者または監護者とならなかつた父母の一方との面接などをいう(家事審判規則五三条)のであつて、養育費は右の監護費用の中に含まれるものである。また、同法一五条二項では「子ノ引渡、金銭ノ支払、物ノ引渡其他ノ給付」を命じうるとし、その具体的内容は家事審判規則五三条に規定しているが、右金銭の支払は、民法八七七条ないし八八〇条及び家事審判法九条一項乙類八号の「扶養に関する処分」としての扶養料ではなく、むしろ監護者が子を養育するについて必要とする養育料(監護費用)を意味すると解すべきである。したがつて原判決が控訴人の養育費の申立てを却下したのは、法律の解釈を誤つた違法なものである。

理由

当裁判所も、控訴人の本訴請求は、原判決認容の限度においてこれを正当として認容し、その余は失当として棄却(養育費の申立てについては不適法として却下)すべきものと判断するが、その理由については、左に付加するほか、原判決がその理由において説示するところと同一であるから、これを引用する。

(控訴人の当審における主張についての判断)

人事訴訟手続法一五条一項が、離婚の訴において、通常裁判所が子の監護について必要な事項を定め得るものとした趣旨は、子の監護に関する処分は本来家庭裁判所の権限に属する審判事項(家事審判法九条一項乙類四号)であつて、訴訟の対象とならないものであるが、子の監護の問題は、離婚の訴において形成される裁判上の離婚と密接不可分の関係にあることから、手続の経済及び当事者の便宜等を考慮して、とくに通常裁判所が訴訟事件である右離婚の訴の判決手続に附帯して判定することを認めたものであるけれども同条項及び民法七七一条(同法七六六条)にいう子の監護について必要な事項とは離婚に際し、親権者にならなかつた父母又は第三者が監護者に指定された場合において、右監護者が子を監護するために必要な事項をいうのであつて、離婚に際し子の親権者となつた父母の一方の子の養育に要する費用は、右監護について必要な事項に含まれないものと解される。

したがつて本件のように裁判上の離婚により父母の一方である控訴人が親権者と定められた場合には、子の養育費の分担額等の決定は、右監護に必要な事項に含まれないものと解するのが相当である。右養育費に関する決定は、家庭裁判所が、専ら扶養料に関する審判事項として、控訴人、被控訴人各自の資力、生活程度その他一切の事情を考慮して、審判により決定すべきものであるから、控訴人の本件養育費支払の申立ては不適法というべきである。控訴人の右主張は採用することができない。

よつて、原判決は相当であつて、本件控訴は理由がないから、これを棄却することとし、控訴費用の負担につき民訴法九五条、八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 中島恒 塩谷雄 涌井紀夫)

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